ガイヤニズム

vol.0

<摩擦をおそれない。>~イイトコサガシ主催・冠地情さんの挑戦

2015年01月21日 16:03 by waenoi

  最近「コミュ障」という言葉を、いつから見聞きするようになったんだろう。

   先日も電車で部活帰りの高校生が「あいつ、コミュ障だからなあ」と文句をたらす場面に出遭い、この造語がごく日常レベルに使われている事実をあらためて体感した。専門意識が希薄になった風潮もあってか、企業は円滑な対話能力のある人材がいかにも「最有能」と見なすのはまだしも、今やコミュニケーションが「必須のスキル」さえなっている。このような時代傾向で泣き寝入り状態に押しやられているのが、近年話題の「発達障害」--特に’’広汎性発達障害’’とよばれる自閉症傾向にある人たちであることは言うまでもない。とくに成人の場合、支援者・機関を利用する選択がほとんど無い実情のなか一般人との技量格差に圧倒され、彼らに足並みを合わせる努力と比例して一般人の要求にこたえきれずに心身を崩す人も多い。その主な理由がコミュニケーションである.

周囲との軋轢が弊害となり、人生の棒をふりかねない彼らをはじめ、人付き合いが苦手な人はこの「社会的圧力」をどうやってくぐりぬければよいのか、現代「コミュニケーションの場数を踏む場」が求められている。なかでも60種類以上にわたる多彩なワークショップを全国各地に提供する、発達障害者自助グループ’’イイトコサガシ’’の活躍は著しい。コミュニケーションと人間関係について、主催者の冠地情(かんち・じょう)さんは「本来、人付き合いは人と人との衝突による試行錯誤からはじまる。」われわれはどうしても関係を持つと衝突をなるべく回避しようと努力する。でももし、もつれあいが起きてしまったら・・・・・・よほど打ち解ける間柄でないかぎり交流にピリオドをつけがちになるのが大概ではないだろうか。「みんな順序を逆にしてしまっている。そもそも一般にいうコミュニケーションは互いの人間関係、ひいては利害関係でなりたっています。本来なら、コミュニケーションを色々な形で成立させてから人間関係・・・の順番です。まず『人間関係』という利潤を得ようとするしくみが大きな弊害。『多様な人との衝突を、失敗をふまえて経験するチャンス』が必要です。」

しかし、そうはいっても一度ひびが入るとこじれがちな人間関係において、失敗を存分に試せる場所は滅多にない。そう嘆いた矢先、7月中旬に精神障害者就労移行支援センター・フリーデザインにて人付き合いに苦手意識をもつ方々が冠地情さんの元に集まり、特別ワークショップが開催される話に誘われて参加したことを思い出した。以降はその述懐である。

ところで人付き合いの苦手意識から生きづらさを抱えているのは、発達・精神障害者に限ったことではない。文化的背景の違いが要因となるケースもある。ワークショップに参加された在日コリアンの女性は「私は友達に贈り物を渡そうとしたとき、できるだけ最上のものを用意し『最高のプレゼントです。』と前置きしたら友人に顰蹙をかわれた経験があります。日本ではどんなにきちんとしたものでも『つまらないものですが・・・・・・』という配慮の言葉を交わす礼儀に、当時は戸惑ってしまいましたね・・・・・・」

他者にたいして謙遜する文化が基底にある日本文化は、オリンピック招致でも話題になった「おもてなし」や「ゆずりあい」等、相手を重んじる美学がある。この和の文化において「自己を肯定し、主張する」ことは、新鮮とも言えるだろう。この事については後ほど詳しく述べる。

さて、イイトコサガシの特色の要・アイスブレイクがはじまった。アイスブレイクはその名の通り(氷を壊す)という意味で、こり固まった緊張を解くのが目的だ。次々と更新される数十種類のアイスブレイク・ワークショップから2つ取り上げられた。

ひとつは数人が円になり、3人が立って残りは座るという遊びで、立った数人のうちの誰か1人が座れば後の1人が立って[3人]を保持しなければいけない。ゲームに馴れると、こんどは立つ3人のうち2人が同時に座って残りの2人が立つなど、難易度が高くなる。これがシンプルなゲームのわりには、難を極めるもので人を混乱させる。ルールの進度が加速していくにつれて、手も同時にあげたり、立つ順番を指定され、出番を不意に忘れたことをきっかけに確認作業が欠かせなくなる煩雑さだ。さながらもぐら叩きを連想するな、と思いつつ遊びに私は没頭する。冠地さんいわく「対人関係で発生する混乱時の耐性をつくる」のが本ゲームの趣旨のこと。

 

もうひとつは会話のワークショップ。まずはじめに、見本になるメンバーを3、4人募集して数分ごと「テーマ」に沿って会話を進める。今回のテーマは{好き}で、[好きな○○、○○の好きな所]等、他愛のない話題を思い思いに語らせる。もちろん、テーマの単語をある一定時間使わなかった場合、冠地さんをはじめスタッフの方による軌道訂正付きで。ただし、設定された時間以内のみ許される制約つきだ。初心者向けの場合はイイトコサガシのスタッフさんが臨機応変に枠組みを変更するとのこと。

そして終了後、残りの見物者は歓談したメンバーの話しぶりや会話を進める上で工夫した姿勢などの長所をほめる。この空間には「批判」という要素がいっさい除外されている。これぞイイトコサガシ。

さてこのゲームが開始される直前、私たちは冠地さんから鋭い忠告を受けた。

ここから、前述の当記事におけるキーポイント・「自己を肯定し、主張する」の詳細になるが、重要性ゲームに参加する際、参加者が進んで自分から手を上げようとはせず (誰かがやってくれたら……)と相手に期待する態度があるように映ったからだ。この様子はワークショップが開始されてから一貫して見受けられる場面であった。私は必要に応じて挙手していたがワークショップのクライマックスになると、決まった常連の幾人しかほとんど質問や意見を語ることがなかった状況に気づき、残りのメンバーもなるべく参加して欲しいと思いあえて控えたが、数十分経過しているのにもかかわらずしんみりとした態度は杳として変わらない。沈黙は物理的な空気さえよどませる効果があるのか、鈍重な空気感を破ろうと主催者の説得がはじまる。「今ある閉塞感は恥ずかしいからすすんでチャレンジしない、あるいはチャレンジできないという気持ちをみなさんは、抱いてるでしょう。でもその恥から出る閉塞感は結局『自分を守ることが前提にある』からなんです。自分は傷つきたくないから主張しない。そんな思考形式が、日本社会を停滞させるのです!

だからこそ、イイトコサガシ・ワークショップは試した時点で大成功!なんです」

 

閉塞感・・・・・・リーマンショック以降頻繁にこの単語の文字がことさら目立つようになった印象を受けるが、不況に由来する「とらえどころのない不安」を表した単語だという認識が私の中にあった。個人と周辺をつなぐコミュニティーに可視化できない束縛--世の論客方は「行政や企業をはじめとする主導層の高齢化である」とか「若者の反骨の刃(やいば)の矛先が不明瞭で、内なる煩悶の日々を送らざるをえない」等、閉塞感の根源を推測してきた。彼らの多くに共通する意見は「社会全体の固定化傾向」を指摘しているが、<失敗がゆるされない、あるいは制限されている世界では、自らの主張や意見を語りにくい・通りにくい『阿吽』のバリアがソフトに支配している>ことこそ最大の原因なのではないか、と冠地さんの忠告からあらためて気づかされた気がした。逆に言えば、この傾向は日本で実現しつつある「複雑な成熟社会」が投げかける課題じゃないか、と考えることも出来る。合理主義が台頭する過渡期において、かねてから支配的だった慣例主義からの脱却に、時代は個人の意思にかぎらず当惑している現実を、読者の方々もうすうす自覚する人も少なからずいるとおもう。テレビや新聞で、見聞きなれたワードをこの場で汲み取り、疑問を投じ、対面する注意喚起の姿勢を日常生活に習慣づける大切さを、知らずに過ごしてきた自分の日常に後悔せずにはいられない。

冠地さんのワークショップは、一般的に「障害者」とか「コミュニケーションスキル向上」などという、特定の主題にもとづいた共同作業体験では終わらせない「現代社会に潜在する根本的な課題」を正面から突きつけてくれる。

そのユニークな特色は実際、時と空間をともにするメンバーさんの中での意見の齟齬や、ゲームを進める間にうまれる意思疎通の誤解で、険悪になる場面がときどき発生する現場が見事に表出してくれた。一般社会では、極力食い止めたいシーンだが、むしろ互いを理解するプロセスと歓迎して肯定的にとらえ、意見の違いを傾聴し、取捨選択しつつ受容する――「けんかするほど仲がいい」というのは、この事だったのか、とワークショップを終えたとき私は合点がつく。

人も自然も十人十色。この熟語の中には単に容姿や言語など個性の違いを表すだけでなく、 <いま、あるすべてに対して、何らかの認知感情を持ち、理性によって対処する人間の権利と尊さ>をいう真意がこめられているのではないかと最近、とらえるようになってきた。当然そこで摩擦がうまれる。わたしたちが摩擦をおそれるのは、そこに<対立という利害関係>なるものを経験してきたからだろう。そこに必要なのは、互いが言い争う批判の平行線をできるだけ小さくし、偏見などの固定された価値観のフレームをはずす努力が欠かせない。そして素直に相手の想いを聞く。

簡単ではない。むしろ苦痛を感じるテクニックだ。でもそこから戦争が消える糸口があることは確実だろう。

和の真髄は、ここにある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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